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「魅力的な選手を育てるためには育つ過程を邪魔しないこと」李済華(國學院久我山高校コーチ)

Q.試合では選手の個性が生きているという印象を受けますが?
A.個性は、こちらが求めなくても本質的に持っているものです。また、同じことを求めても選手ごとに違う形になります。たとえば、ドリブルでフェイントをかけるのが上手な子がいれば、足が速くて相手の背後を積極的に狙う子もいます。キック力があれば遠くからシュートを打ちます。プレーの選択に個性は出ます。

しかし、最近、クラブ育ちの子に多いのですが、感情が豊かでなく、どの選手も同じように見えて個性的じゃないと感じることはあります。スポーツの場合、感情がエンジンで理性はブレーキです。それなのに、初めから理性的にサッカーをしようとしています。

少し逆説的ですが、それはサッカーが上手でも魅力的ではありません。パターン練習などを用いて、理屈でサッカーを教え過ぎているのではないかと思います。サッカーは失敗を恐れ過ぎると魅力のないスポーツになります。最終的には相手より多く点を取っていれば勝ち。90分でできるだけ多く点を取るためのプレーを選択していかなければいけません。ロングシュートを打てば相手が寄せてきてスルーパスが有効になり、サイドからドリブルをしかけていくと逆サイドのマークが空いてくるとか、一つのプレーに限っての正解というものはなく、そのプレーによって次のプレーが生まれていく。だから、局面の理解度をいかに高めて、ゲームの中で実行するか。その中でみんなにチャレンジが許されるスポーツだと捉えれば、サッカーはエキサイティングで個性的になると思います。

魅力的な選手を育てるために大切なのは、選手が育つ過程を邪魔しないことです。サッカー以外の面を含めて、心身の健全な発育を見守ること。そして、テクニック使い方において致命的になりうる欠点を矯正すること。そうすれば、ゲームの中で創造的な選手は育つと思います。

 

 

Q.欠点の修正というのは、どういうものですか?

A.細かい技術については、長所を伸ばすのではなく、欠点を修正します。長所は勝手に伸びるものですから。子供は、自分が好きなことはどんどんやります。でも、欠点を修正することはなかなかできないし、ストレスがかかるのでやろうとしません。だけど、その欠点が直ればスッとうまくなる子がいます。上手な選手は立ち姿、走るフォーム、ボールタッチの全てが綺麗。そういうカッコいいプレーヤーを育てるためには、キックのフォームがずれていないか?ボールタッチのポイントは正しいか?シュートのときにお尻が下がって重心が落ちていないか?など矯正しないといけない部分はあります。ときどき「基礎練習をやっておけ」と子供たちに任せてしまう指導者の方がいますが、私はおかしいと思います。プレーの安定性を出していくための基本練習こそコーチがしっかりと見るべきです。

 

 

Q.以前「みんなが高校選手権にお世話になってきた。この大会を『クラブユースに入れなかった、下手な子たちの大会』にしてはいけない」と言われたことが印象に残っています。監督にとって、高校選手権とはどういう大会ですか?

A.日本は今、欧州のクラブ文化に学ぼうとしていますよね。でも、もっと日本的なものを大事にした方が良いと思います。それがサッカーの高校選手権であり、野球の甲子園大会でしょう。"部活"という言葉には、かつてのシゴキという暗いイメージがあると思います。しかし、学校の先生が見守ってくれる中で、授業が終わったらすぐにサッカーができるという素晴らしい文化です。私は"ジュードー(柔道)"と同じように、"ブカツ"は世界共通語になってもいいくらいだと思っています。

最近はトーナメント戦の弊害が指摘されて、高校サッカー界にもリーグ戦の導入が進んでいます。ただ、一発勝負が一番エキサイティングなのだから、これはこれでいいと思います。東京都予選の決勝戦では毎年、西が丘サッカー場がものすごく盛り上がります。でも、高校対クラブ、クラブ対クラブで試合をしても同じようにはならないはずです。学校のブラスバンドやチアガールまで一緒になって盛り上がるのがいい。観客がいない試合は面白くありません。観客がゲームを作っていく部分もあるからです。彼らはもう一人の主役。そういうものを含めて高校サッカーは成り立っていると思います。

 

その中で指導者にできることは、良い内容のゲームを提供することです。バックチャージでも何でもありで勝てばいいという試合をしていたら、観客もマスコミも高校サッカーから離れていくでしょう。欧州のようなリーグ戦を導入するのいいと思いますが、日本が築き上げてきた高校選手権という舞台に集約されているこの文化をもっと大切にするべきです。

 

(出所:エルゴラッソ2011年12月23日発売号)